家に帰ると、殺したはずのパパがダイニングにいた。


テーブルの上に広げた新聞を読みながら、湯気の立つコーヒーカップに息を吹きかけている。


背筋が凍りついた。

ありえない光景に愕然として思わず息を止める。

スクールバッグがあたしの手から床に落ちて、その音に気づいたパパがこっちを見た。


「おお、おかえり、ひかる」


ぼそりと言ってから、パパはまた新聞に視線を戻した。


あたしはいったん目を閉じて、三つ数えてから目を開けてみたが、パパはやっぱりそこにいた。

声ひとつ出せずに立ちつくしていると、玄関のドアが開いてママが入ってきた。


「ジャガイモだけ足りなくて、スーパーまでひとっ走りしてきちゃったわ。ひかるもいま帰ったの?」


買いもの袋を片手にママがダイニングに入ろうとしたので、あたしは袖をつかんで引きとめた。


「ねえ、そこにパパがいるよ……」


「え? ああ、今日はいつもより早く仕事が終わったみたいね」


ママはなに食わぬ顔でダイニングに入って行き、テーブルの上にあるテレビのリモコンを手に取った。


「ちょっとチャンネルかえていい?」


ママがパパに話しかけている。


パパは新聞から目を離さずに、「ああ」と低い声でこたえた。


ママは芸能ニュースにチャンネルをあわせ、テレビの音量を上げてから流し台の前に行き、夕食の準備に取りかかった。