さて帰るか。

塾の授業も終わり、ぞろぞろと教室から出て行く生徒。

約2キロの道のりを自転車で通う。

話し相手がいないとつまらない。

1本目の交差点。

いつもは目に留めない。

だって学区じゃないから。

知り合いもいないはずだ。

「おーい!山岸―!」

誰かあたしの名前を呼んだ?

いつからあたしは有名になったんだよ。

空耳に決まっている。

次の交差点。

「よっ!」

やってきたのは塾も学校も同じ男子。

たまに一緒に帰ったりしている。

もう帰ったと思っていたのに。

後ろにはさっきの声の主がいた。

親友の片想いの人。

あたしとは普通に仲がいい。

とその親友の隣人(クラスの席が)。

あたしとはしゃべったことがない。

彼の名前は楓真(ふうま)。

通称ふうちゃん。

憧れの先輩の弟。

しばらくするとあたしとふうちゃんだけになった。

初めてとは思えないぐらいたくさん話した。

頭はあまり良くないけどスポーツを頑張っていること。

高校に行ったらやりたいこと。

あたしは気付かないようにしていたのかもしれない。

彼に抱く感情が変わっていたことに。