侘助が言葉を掛けると、海棠が姿を消した扉とは別の、ダイニングへと続く扉が静かに開けられた。


「バレてたん?」


脳天気な明るい声が聞こえてのっそりと現れたのは、肩につくかつかないかの長さの銀髪頭をポリポリと掻きながら、細い目をした痩せた男。全く悪びれもせず、先程まで海棠が座っていた革張りのソファに腰掛ける。その動きには無駄がない。


「気配垂れ流しなんだよ、烏は」


「あはは~、侘助相手じゃ気配消してもバレるやん。僕、無駄なことしたくないんよ」


烏、と呼ばれた男。本来は烏丸(カラスマル)という名があるのだが、本人が気に入らないのか皆には烏と呼ばせていた。本心の読めない薄ら笑いを常に浮かべていて、誰にもその心の内を見せたことがない。


「京都は楽しかった?」


にんまりとした笑みを浮かべた唇が動いた。
そんなところから聞いていたのかと、侘助が眉根を寄せて彼を睨みつける。


「何が言いたい?」


低い声音で問えば、わざとらしい咳払いを返した烏丸が薄ら笑いのまま。


「誰を殺(ヤ)ってきたん?」


「……答える必要があるのか?」