「なら蜜姫(ミツヒメ)は?」


「蜜なら自室に籠もってる。たまには話したいのになぁ」


そう言って海棠は視線を天井へと向けた。言葉とは裏腹に冷たい瞳だ。
それを無表情のまま見つめていた侘助は、小さく息を吐いた。赤い唇がゆっくりと言葉を吐き出す。


「仕方ないだろ。蜜はお前が嫌いだ」


琥珀色の瞳の目が海棠を睨むように細められる。その表情がまるで警戒心の強い猫のようだ、と海棠は思う。足音は立てないし、余計な口はきかない、気紛れに現れては消える。


「嫌われちゃったかぁ~、寂しいなぁ」


「ふん、心にもないことを」


鼻を鳴らしてじとりと海棠を見やった侘助は、ソファに深く沈み込んで目を閉じてしまった。どうやらもう口を開く気はないらしい。
それを見て海棠は小さく息を吐いて立ち上がった。


「俺はこれから出掛けるから。しばらく此処にいるなら蜜姫のことよろしくね」


「ああ」


目を閉じたまま返事をした彼女の、小さな顔にさり気ない動きで手を伸ばした海棠は、す、と屈み込んだ。
じゃあね、と言う言葉と同時に赤い唇に自身のそれを重ねる。刹那のくちづけ。