烏丸は着ていた黒のジャケットの懐へと手を忍ばせた。ゆっくりとそこから引き出したのは、ダガー。柄と鞘にシンプルながらも細かい彫りの入った短剣だ。烏丸はその鞘からそっと刀身を引き抜く。刃渡り二〇センチほどのそれを、じっと見つめながら口角を引き上げた。


「今日もたっぷり血ぃ吸わしてやるからなぁ、楽しみにしとき」


明かりを反射して危うい輝きをきらめかせるナイフを、まるで恋人でも見るかのような愛おしさを込めた視線で舐め回すように見た烏丸。彼の愛用するのはこのダガー、そして小型の拳銃。どちらも状況に応じて使い分けるのだから、彼は器用だ。


「さぁて、ほんならお仕事行きましょか」


そう言った烏丸は口元に笑みを貼り付かせたまま立ち上がった。大切そうにダガーを懐にしまい、胸を押さえる。
まるで何かに祈るように一度目を閉じ、それからぱっと顔を上げて歩き出した。


絨毯の上、そして床を歩く彼の足下からは海棠や侘助と同じく少しの足音も響くことはない。
流れるような動きで烏丸は居間から姿を消した。


後に残されたのは空調の音が微かに響く、静かな空気だけ……。