10・思春期



泉を囲む木々たちは、さわさわと静かな音を立てる。

緑色の光を降らせながら、静かに微笑ましく俺たちを見守っているようにも見える。

いつの日かの俺の様に…。


「…じゃあ、俺は向こうの岸辺でずっと後ろを向いているよ。だからハルカはそこの岸辺で…」

「ぬ、脱ぐの!?」

「あぁ、お互い背中合わせなら恥ずかしくないだろう?」

俺は手で水をかき分けながら、泉の奥の方へと歩いた。


俺が提案通りに背を向け、間近に迫る滝を見つめていると、


「…う~…絶対見ないでねッ!」

ハルカはそう言い、諦めたようだった。

「あぁ…。」


俺は正直、困っていた。

異性として意識される事に、
くすぐったい感覚をおぼえていた。
それは、久しく忘れかけていた感覚だ。



服と体が擦れる音は、
次第に「チャポ…」という水音に変わる。


「…入ったか…?」

耳を澄ませていた俺はハルカに声を掛けた。


「…うん、…きゃッ!」

恥ずかしそうに呟く言葉が、悲鳴に変わる。


『どうしたんだッ!?』

「…ハルカッ!?」

俺は「危険」を察知して、構わず振り向いていた。