ふと…、
誰かに…見られている視線を感じる。

そんなはずがないのに。


周囲を見回すと、
水面に消えたはずの男の子の断片。

泉を挟んだ向こうで、俺を手招きしていた。

……アズ…?


『キースも早く来いよ~!』

俺に笑顔を向け、砂ヤシの木々が生い茂る向こうへ…

消えた…。


え…
……なんだ?


俺は、こんな記憶を持ち合わせていなかった。
忘れているのか?

いや…

男の子の消えた向こうは、岩の壁のはずだった。

その先には、
何も在るはずがない。

俺の意識が、自ら創り出したのか…?


瞳を囚われたまま、
俺は泉を迂回し、
砂ヤシの木々の向こうを注意深く凝視する。


やはり、壁だろう…?


『ふふふふ…ふふふ…!キースぅ~はやく~。』

俺の後ろから前へと、女の子が通り抜ける。


アイリ…、壁……


女の子は、
壁の中へ消えていった。


『はやく~!はやくったら~!』

声だけが俺を呼ぶ。


…なんなんだ?

やはり俺の記憶ではない。
躊躇い、足は固まる。


誰だ…?
俺を導こうとする者は…

どこへ、
連れていこうというんだ…?