記憶 ―夢幻の森―



静かな山頂…、
音もない、澄んだ空気。

声を出そうと息を吸い込むと、
胸が痛い…

…ここの、空気のせいだ。


言わなければ…。

あぁ…
そうだ。

言わなければ…



「……お別れだ、ハルカ。」


俺は悲しい想いを飲み込んで、
ハルカに笑顔を向けた。


「……ぇ…?」


ハルカの笑顔が、
みるみる曇っていく。

ハルカの手のひらが、
とても寂しそうに俺を待っていた…。


ワゥ…
『…な、何言ってんだぁ?キース。パパもママも待ってるんだぞッ?』

「…あぁ。お前たちだけで、帰るんだ…。お別れだ。」

コンの…
いつも元気な黒い尻尾が、
ぺたり、と地面へついていた。


「別れ」の言葉は、
なんて苦しいのだろう…。


「…え…。今…?」

「…あぁ。」

ハルカの手は、
未だ震えながら、俺を待っている。


「…キース…」


「――…お別れだ…!!」


俺の震える声が、
自分で思っていたよりも大きくて…

その言葉は…、

ハルカやコンが、もう一度と聞き返せないほどに…

…鮮明だった。


もう…
「別れの言葉」を、
俺に言わせないでくれ…。


これ以上は、

笑顔を、保てない…。