記憶 ―夢幻の森―


先にハルカに着替えをさせた俺は、随分と泉に浸かったままで、指の先は若干白くふやけていた。

ハルカが俺に背中を向ける横で、着替えを済ませ、最後に剣を腰に巻く。

「…終わった?」

「あぁ、いいぞ?」


俺の返事を確認すると、ハルカは照れくさそうに笑い、

「じゃあ、次はコン!」

そう言いながら、先程まで俺が使用していた布でコンの体を拭き出した。


幸い、ユリネさんの用意した荷物の中に大きめな布を発見し、三人で順番に使用した。

コンの番には大分湿り、

『…ちゅめたい…』

と、少しご機嫌を損ねていた。



「じゃあ、行こうか…」

ハルカの荷物の整理を待って、俺は滝の方へと足を進める。


「うん、行こう。泉の精霊さん、有り難う!」

ハルカは泉の水面に向けて頭を下げると、いつも通り、左手にランプを持った。


『お水も、なかなか好きになったぞッ!』

コンはハルカの隣で偉そうに黒い尻尾を振り、ワンと鳴いた。


泉の精霊はそんな彼女たちに答えるように、水面を光らせ穏やかに波紋をつくる。


『…洞窟は足場が悪い…気をつけなさい…』

そう落ち着いた声だけが水面から響いた。