―過去―





美亜は、俺の過去なんて知らない。


俺がどんなに孤独な幼少時代を過ごしてきたのかも知らない。



でも、なぜか美亜と一緒にいると、美亜が俺の全部を知ってくれているような気持ちになった。




まだ出会ってもない昔のこと。


俺も美亜もお互いに話しはしないが、どこかで似ているような気がしていたんじゃないか。




俺が野球にのめりこんだのは、母さんが俺の前からいなくなったからだ。



寂しさを埋める為に俺は毎日毎日暗くなるまで河原のそばのトンネルの壁に向かってボールを投げた。



母さんがくれた最後のプレゼント。


母さんがくれたグローブで、キャッチボールをした。




相手は母さんじゃなく、壁だったけど。





母さんを恨んではいない。



母さんはたくさんの愛を俺に残してくれた。


俺の中には、しっかりと愛された記憶があるから。




きっと理由があるんだ。


俺を捨てなきゃいけなかった理由が。




だから、俺は自分の人生はこれで良かったんだと思っている。