石段を登りきった先は、丘陵地が広がっている。

…黒い墓石と、立ち並ぶ卒塔婆。

その中から祖母の墓を見つけて、葉子はそっと手を合わせる。

…大好きで、仲が良かった一人の祖母。

墓石に添えた花も、祖母が好きだったスズランの花だ。

もしまだ生きていてくれたら、今の彼女に何と言ってくれるだろうか。

「大丈夫よ、そんなに悲しい顔をしないで。」

祖母ならきっと笑いながら、頬を撫で上げてくれるだろう。

「おばあちゃん…。」

戸惑いもなく、代わりに涙がその頬を伝う。

…出来ることなら、楽しかったあの少女時代に戻りたい。

しばらくそのまま、優しかった祖母のことを思い出していた。


…さて、どれくらい経っただろうか。

気づけば日差しも更に強くなり、青い空には入道雲が沸き上がっている。

「夕立でもくるのかしら。早く帰らないと。」

見上げながら、彼女が白い日傘を広げたとき、

ビュウ…!。

いきなりに強い突風が、後ろから吹きつけてきた。

「あっ。」

風はその手から日傘を奪い、青い空の中へと弾き飛ばす。

まるで舞う花びらのように、それはヒラヒラと石段の下へ落ちていった…。