エレベーターを降りた雄介は、会社のフロアーへと踊り出た。

雨はまだ降っており、それ特有の匂いが鼻につく。

とそのとき、

玄関の軒下に立つ、一人の女性の姿に気づいた。

…早織だ。

恨めしげに空を睨む彼女へと、雄介は話しかけた。

「どうしたの、こんな所で?。」

「あ、雄介くん。」

早織は驚きながらも、手にもつ雨傘を彼に見せた。

「傘がね、壊れちゃったのよ。ついてないわ、ホント。」

嘆く早織の前に、雄介は自分の傘を差し出した。

「そう。良かったらさ、駅まで入っていかない?。」

「いいの?。」

微笑む早織を見て、彼もニコリと頷いた。

(ありがとうな、俺の傘。)

寄り添うように歩きながら、雄介は傘に向かってそっと目配せをした…。



『雨傘の青年』終。