そして、歌声。 甘く、優しく響き渡るその声は 彼の普段の声よりは少し高く、 プロ並に、上手い。 ビブラートが、 胸の奥まで染み渡る。 時々閉じる瞼に、 長い睫毛。 お客さんはもう、 彼に釘付けだった。 ……もちろん、私も。 ハモる瞬間、 倉田瑞季が私を見つめ、 私も、見つめ返し、 2つの声が、メロディーが、 お店全体を包んだ。 心地良い。 そう、思った。 彼の歌声にリードされて、 私も滑らかに歌える。 気付けば自然に目を合わせ、 自然に微笑んでいる、 私たちがいた。