そして、全ての血を吸い尽くしたその剣の刃を被っていた“なにか”は次第に動きが鈍くなり、気が付くと、その人の顔にも似た“なにか”はその剣を収める“鞘”へとその姿を変えた。


“カタカタ…ガタガタ…”

“ヒューッ…”


“ガシャーン”



鞘に収められ、宙に浮いていたその剣は、小刻みに震えた後に、今度は地面に吸い寄せられたかの様に凄い勢いで、地面に落下した。

その一部始終を目撃していた俺は、あまりにも有り得ない程の事が起きた事への恐怖で頭がいっぱいだった。



(何なんだよ…これ…)


(怖い…)


『うっ…』


(叫びたい……叫びたいのに…声すら出せない…)



俺はこの時初めて知った。

本当の恐怖とは…“叫ぶ余裕”すら無くなる事を…


更に、その本当の恐怖を目の当たりにした者は…指先一つ動かせなくなり。ただただ、その場に立ち尽くすしか無いという事を…


そして、俺は悟った…本当の恐怖とは…まるで自分の中の“時が止まる事”となんら変わらない事なのだと…


俺がその恐怖に支配され、身動き一つ取れない状況の中で、今度は俺の耳に、“誰か”の声が聞こえ始めた。



“剣を取れ…”


“剣を取れ…”



『ん』


『お、親父…』


『今の…』



俺が咄嗟にそう親父に尋ねたが、親父からは何の返事も返って来なかった。



『親父っ―』



俺は後ろを振り返り、親父の方を見たが、親父はまるで、死んでいるかの様に微動だにしなかった。



『親父……』