「何も… ないよ。」




少し笑って、私から離れた。




自分でも、よく分からなかった。 ただ… 彼に触れたかった。





「それより、さっき何か言いかけなかった?」




私から、話題をそらした。




「えっ? あぁ…  これ、マネージャーから。
この前のカレーの、お礼だって。」




そう言って封筒を差し出す。




何だろう… 受け取って、中を見る。





「…これ、チケットだよ… 薫のコンサートの。」




「えぇっ! ・・ほんとだ・・」




慌てて、のぞきこんだ薫がつぶやく。




「あさってだね… 一応あいてるけど… 行ってもいいの?」




「うーん・・・ 来てほしいような、来てほしくないような・・・
でも何考えてんだ? 井上さん…」




腕組みしながら、彼がつぶやく。




「あっ!! 一列目だ!」


私が叫ぶ。



「えっ! マジかよー…」



あせる彼が、段々かわいくなってきた。




「私、行こうかな!」




その言葉を聞いて、彼は軽くため息をつき、




「どうぞ… お待ちしてます。」



と、頭を下げた。