「じゃあさ、夜の海で、月を見た事ある?」



彼が聞いてくる。




「ううん、ない。」





「満月の月明かりって、とっても明るいだろ? 
その月明かりが真っ暗な海にキラキラ光って、一本の道みたいに見えるんだ。
浜辺から水平線までのびてるその光を、ずっと見てると歩いていけそうな気がするんだ…」




「へぇー… 見てみたいな…」




私は満月を見上げながら、答えた。





「いつか行こうか! お気に入りのスポットがあるんだ。」




「…うん… 期待しないで待ってるよ。」




「何だよ、それ。」




薫が私のおでこを軽くたたく。





「だって。同じ家にいながら、こんなにすれ違うんだよ。一緒に出かけるなんて、いつになるか…」




「そういうのは、多少無理してでも合わせるもんなの!
よーし…絶対連れて行ってやる!
約束だからな!」




「はいはい…」




思わず笑ってしまう。




ムキになって言う姿が、子供みたいで可愛いかった。