密着していた海翔様が、徐々に私から体を離す。



そして、離れていくぬくもりとは逆に、触れるか触れないかの距離まで唇が近付いた。



目をつむることすら出来なくて、ただ接近してくる海翔様の顔を凝視する。



暖かい息が私の唇に触れたけど、

唇は触れなかった。



そのまま顔は離れて背けられ、

「遅くなるなら連絡しろ」

という言葉だけが私の耳に届いて、


海翔様は寮に入っていってしまった。



私はそっと自分の唇に指を触れ、

目を伏せた。



感じられなかったぬくもりが、私の心に与えた気持ちには、気付かないフリをして。



そうしてから、海翔様の体からほとんど熱を感じなかったことを思い出す。



「もしかして……」



ずっと、待ってたのだろうか。


あんな格好だから、ついさっき出て来たのかと思ったけど、

もしかして、ずっと……?



それが何を意味するのか、

海翔様の中で私はどんな位置にいるのか、


今はまだ考えたくなかった。