ああもう、
私の心臓が平常のリズムを忘れてしまう前に、
このドキドキをつま先に込めて、スリッパごとぶつけてしまいたい!
ドキドキさせるその背中に、のしをつけて返してやりたいよ!
引かれる手を見つめながら、私はいつの間にか最後の段となっていた階段を昇りきった。
「……今日、悪かったな」
部屋の前でそう言った海翔に、私は思い当たることがなくて、「んむ?」と返事らしくない言葉を返す。
「まだ、誰だかわからないんだ。
おまえには悪いが、この機会に炙り出しておきたい。
おまえなら知らないヤツにはなびかないと、信用してんだぞ、一応」
…………えーっと??
「おまっ……いや、何でもない。
ほんといい度胸してるな、おまえは」
優しい手が頭の上に置かれ、食堂で言われた言葉が降ってきた。
あれはご飯を作らなかったことを不機嫌に思ってたんじゃなくて、
もしかしたら……
「あたし、へっちゃら」
考える前にそんな言葉が口をついていた。



