そんな私の耳に、低く怒気をはらんだような声が聞こえてきた。



「きょろきょろすんなって、言ったはずだけど?」



思わず海翔を見た私は、「ひっ!!」と声を上げた。



にこやかな表情の裏で、ズゴゴゴゴ、としか形容出来ないトグロが、海翔の周りを蠢いている。



それは空気中から酸素を奪って黒く激しく燃え広がるかのようで、私は心臓が恐怖で凍りついた。



特に私の周りの酸素濃度は、明らかに減ってると思う。



だって、ゆっくりと顔が寄せられているから。



「ちょ……っ!」



離れようとした分以上に詰め寄りながら、海翔は言った。



「さっき言ったこと、ちゃんと聞いてた?」


「き、聞いてた」


「じゃあなんで舌の根も乾かないうちに他の男とわかりあっちゃってるのか、

僕にわかるように教えてくれるかな?」


「そ、そう言われましても……」



たじたじと後退りする私に、それ以上の進みっぷりで距離をつめてくる。


「先輩、俺がいることをお忘れなく」



その一言がひゅんと飛んだと思うと、

海翔の身体がぐらりと揺れた。