深呼吸をしたナツは、私から目をそらさないまま肩から力を抜く。



ゆっくりと動いた唇が告げたのは、私の心を大きく揺さぶるものだった。


「アヤが出て行ったあと、海翔さまは教室中の注目を集めてた。

取り巻きの女の子たちは騒ぎ出すし、
男たちは下世話な話をしだすし。

アヤが去ったことで更に好奇の目を集めてた。

だけど……だけどね?
海翔さまは、はっきりと言ったんだ。

『アヤさんは大事な、大切な人だから。
傷付けたら許さない』

って。

だからあたし思ったの。

海翔さまは、『アヤを好き』と言えばどんな反響や影響があるかわかってたはず。

それでも『好きだ』と言ったのは、周りへの牽制だけじゃなくて、
イジワルを言えるくらい、素の自分を出せるくらい……アヤを好きなんじゃないかな。

それだけアヤには自分のことをさらけ出しても構わないと思ってるんじゃないかって。

アヤの前では王子の仮面を外してもいい……ううん、外したい……そう思ってるんじゃないかな……?」


アヤは試されてるのかもしれない。

ポツリと最後に呟いたナツの声を聞いたかみたかで、私は史料室を出ていた。