「誰も、少年の容姿なんか──見知らぬ他人のことなんか、気にとめないんです。

先天性色素欠乏症という病気の中には、髪の毛が赤かったり、目や肌の色が薄かったりする人間がいるそうですが……

でも、そんなことを知らない人も、都会では少年の容姿なんて気にしません」


カウンターの中に戻ったマスターは
どこか寂しそうに、
ホッとしたように
そう言って、


「少年の村は、少年が去って間もなく、ダムの底に沈んでしまったそうです。

誰も自分のことを知らない世界で、
少年は自分を愛してくれる人を見つけて、
泡になってしまった女の子がおいしいと言ってくれたお茶でお客様をもてなして、

女の子のことを胸の中にしまい込んだまま、今も生きているのだそうですよ」


これで昔話はおしまいですと、赤い髪を揺らしてピンク色の顔は笑った。