「もっとも、このお話には赤鬼も青鬼も出てこないのですけれどね」

「では、何が出てくるんでしょう」

「そうですね」


マスターは遠い過去を振り返るように、目を細めて


「人魚の女の子と、不器用な人間の男の子が」


と言って、語り始めた。


「そう。その村は……」


テーブルの上では青色の闘魚が、
長いヒレを震わせている。

間接照明の仄暗い店内で、

無数の水槽は
光を放って水草色に浮かび上がり、
コポコポと人魚がさざめき笑うかのごとく水音を立てて、

あなたは山奥の湖の底に沈んでいく。

しかしブゥ……ンという低いうなりは意識のギリギリに乗っかって、
あなたとガラスの向こうの水底は隔てられている。




──そう。

その村は、


深い山奥にぽつんとありました……。