地下で静かに佇む喫茶店の特別室のソファーに腰を降ろした。

昨日の訳の分からない依頼人と直接会うためにこの喫茶店に居るわけだ。

昔からマスターとは面識があるため、喫茶店のカウンターの裏に設置されてある特別室を使う事が許されている。

マスターの見た目はよぼよぼのお爺さんだが、昔は闇社会では有名の殺し屋だったらしい。
初めてこの喫茶店に入ってきた時にマスターは俺の職業を見事に当てたのだ。

それから、俺はマスターに何故か気に入られている。
この特別室は狭いのだが、防音設備が備わっているし、隠し扉の裏口も存在する。
俺のような特殊な職業を営んでいる者にはかなり便利なのだ。

突然、特別室のドアが開き濃厚な珈琲豆の匂いと共にマスターが入って来た。

マスターは、俺と対面になるように洒落たテーブルを挟み、俺の目の先にあるソファーに腰を降ろし、俺の目の前に珈琲が入ったカップを置いた。

マスターが淹れる珈琲はほろ苦く、口に含むと酸味が後から追っかけてくる。
本来の珈琲の味が楽して、安心感をくれるような香りがする、そんなマスターの淹れる珈琲は俺のお気に入りだ。

俺は、お気に入りの珈琲を一口、口に含んだ時にマスターが俺に向けて話し出した。