―言えない秘密―



放課後の誰もいない校舎の廊下を、駿は自分の受け持ちのクラスの教室へと向かっていた。



「開いてる?」



少しだけ開いた後ろのドアに手を近付いた時、いきなり掴まれた。



「えっ!」



その手は一瞬で駿の体を引き寄せた。



「先生…」



「哀川!」


甘いシャンプーの香りが一瞬、現実を遠ざける。



「私、ずっと待ってるのに…。どうして会ってくれないの?」



哀川 理彩(あいかわ りさ)は駿の体を強く抱き締めた。



「理彩…、ここは学校だろ。誰が見てるか分からない。手を離して」



「嫌!見られたって構わない!都築先生は私だけの物なんだから。先生は…先生は私だけの…」



「理彩、わがまま言っちゃダメだろ。ここは学校だ。僕達の事がバレたら大騒ぎになる。分かるよね?」



「…だって、だって、先生会ってくれないじゃない。もうずっとデートもしてくれてない!いつまでこのままなの?」



駿は理彩の体を優しく抱き締める。



答えるように理彩が駿の背中に腕を回す。



「今は会わない方がいい。僕の事、ちょっとストーカーまがいの事をしてる生徒がいる」



「知ってる。何人もいる!おまけにその子達、先生の彼女面してるのよ。私、たまらない…」



理彩は涙声になっていた。