「あっ…」
優の足の近くに何か落ちている。
「さっきの子の?」
優はしゃがみ込んでそれを拾った。
「生徒証?そういえば、名前も知らなかったな」
裏返しになっていたそれを拾い上げるとゆっくり表に返す。
その瞬間、優の顔が凍りついた。
「夏川…つかさ…。夏…川…つか…さ。あの子が…つかさ?」
優は生徒証から目を離す事が出来なかった。
全身が小さく震えている。
この間、探偵事務所で教えてもらった名前。
ずっと探していた『妹A』
「あの子が…。あの子が…」
やっと探し出した喜び。
手の届くところにいる安堵感。
だけど―
優は好きになりかけていた自分の気持ちを、一瞬でバッサリ切り落とした。
手が届いたのに、もう絶対手が届かない…。
あの時抱いた気持ちは恋ではなく、妹に対する兄としての気持ち…
だったんだ。
ほんの一瞬でざまざまな思いが巡った。

