燈哉を探して学園中を歩き回っていた、という設定を、ゆいは即興で自分に課す。

「ったく、どこに行ってるのかと思えばこんなとこで。瀬戸岡さんもしかしてコイツと二人だった? 大丈夫? へんなことされなかった?」

「ヘンってなんだよヘンって」

「言葉どーりの意味よ」

「あは。大丈夫よ、宮部さん。私と千里ヶ崎くんは、普通にお喋りしてただけだから。ねー」

「ねーァイダッ」

「うっさい。ほら、ぼやっとせずに行くわよ」

調子に乗って瀬戸岡の言葉尻を真似した燈哉の頭をひっぱたき、そのまま襟首を掴んで引っ張っていく。

燈哉を探し回っていたのだから、見つけたなら目的の場所へ向かうべきだ、と設定を延長させる。できうる限り自然に、この場から離脱するために。

そのとき瀬戸岡に、呼び止められた。

「ねえ宮部さん」

「――、なに?」

「宮部さんは木霊――聞いた?」

「……」

―― うっさい ――

昨日の、声を、思い出させられる。

しかしゆいは小首を傾げながら肩を竦める。