ぼろぼろと涙を落とす俺を見て、皆は顔を見合わせて、ちょっぴり笑っていた。
「太陽…?」
柔らかい頬笑みを湛えた母さんが、泣きやめない俺の頭を優しく撫でてくれる。
今の俺はやっぱりおかしい。いつもの俺なら、その手を振り払っているだろうに。
「ねえ、太陽。
あなた…何か、思い出さなきゃならない事があるんじゃない?」
「…うん、でも…思い出せないんだ。
今だって何かがおかしいと思ってるけど、それが何なのか分からない。
想い出さなきゃならない人も、居るのは分かるけど…それ以外は、何も…」
「…そうね。ここでは記憶が…。
…補助だけでも、してあげる」
母さんはそう言って、俺の着ていたTシャツをめくり上げた。
「な…っ?」
「太陽、見なさい」
フッ と目の前に現れたのは、大きな姿見。嫁入り道具として持ってきたのだと聞いた事がある。
母さんたちが居ない時に、いつもこっそりと使っていたソレは、いつもとは違う俺の姿を映し出していた。
「これ…」
鏡の中の俺の姿は、記憶にある自分の姿よりも少しだけ大人になっていて
その胸には、何かに刺された様な傷跡があった。
「太陽、想い出しなさい」
貴方の、大切な想いを。


