月は俺を“中坊”と言っていた。
確かに俺の記憶は、中学三年の春で止まっている。でも、何か違う気がしてならない。
俺は…何かを……
「太陽ー!!ちょっと来なさーい!!」
「…母さん…?」
思考が遮断された途端、今まで自分の部屋に居た筈なのに
空間がグニャリと歪んで、いつの間にか俺はリビングに居た。
どうなっているんだ、これは。
「太陽、聞いてるの?」
またしても思考が遮断され、ゆっくりと目線を壁から母親に移す。
「…ゴメン、聞いてなかった」
「もぉーー!!おかしくなっちゃったの!?
ねえ、お父さんからも何か言ってやってよー!!」
「月、それは私のセリフじゃないかしら?」
「って言うか、父さんも月の彼氏の話、聞いてないぞー」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める家族を見て、何故だか分からないけど…
分からないけど。
「…ゲッ!!お母さん、お兄ちゃんが泣いてるよー!!」
「あらあら…」
「むっ!誰か写真とっておけ!何かあったらそれで脅すんだ!!」
「お父さん酷ーい!!」
「酷ーい」
「む…?母さんまで…!?
い…いやー、太陽君。どうしたんだい?」
薄くなった頭に手を当て、悪戯に失敗した子どもの様に俺の顔を覗き込んで来る父さん。
間近で見たその顔には、深い皺が幾つも刻まれていた。
「分からない…けど、なんか、懐かしいんだ」
父さんの皺はこんなにあったのか、って…。それって、暫く見ていなかったから分かる事じゃないのか…?


