「白髪のお人、お名前は?」
「アダムだ」
「そうですか、アダム。では、アダム、今すぐそこをおどきなさい。門を通るのにあなたは邪魔だ」
「そう言われてもなぁ」
「おや、この子がどうなってもいいのですか」
「ミー」
「…………」
なるほど、猫を掲げたのはこのためかと、アダムはため息をついた。
「この猫さんのヒゲをぬきますよー」
「ミーっ」
「猫のヒゲは案外大事なものなのです。ヒゲ一本でも抜けば、立てなくなるぐらいバランスが崩れるそうですよ。ああ、恐ろしいっ。なんと恐ろしいことなんでしょうか」
「ミー、ミーっ」
「ああ、分かった分かった。返せ、通すから」
アダムがどける。それを見越した姫は、猫を地に置いた。
ぴゅー、と音にしたらそうなるようなスピードで白猫はアダムに近づき、頭の上に乗る。


