「す、好きって……!」
しどろもどろで、もろに舌を噛んだ男。耳がピーンとしているのに気づかず、ついでそれを見て楽しむ姫すらにも気づかない。
騎士としてではない方で好いている。この『ない方』がクロスにとっては重要。
一人間として好きでいるのは、自分がこっそりと持っている気持ちと同じではないか――
「どわっ」
と、思っている時だった。スプーンが飛んできたのは。
後頭部にヒット。前に倒れ、机にふして、ぶふわっと悲鳴をあげたクロス。
スプーン一本に“破壊力”をつけるこの妙技。これにもまた既視感を覚えて。
「ビルディの隣でなぜ、変態がお茶を飲んでいる」
既視感が現実にいた。
不機嫌そうな顔。いい顔しているくせして、年がら年中眉間にしわ寄せをしては台無しだと言うのに――彼の場合、クロスを前にすれば不機嫌さが二割り増しになる。


