はしゃぎまわる犬とはずいぶんとかけ離れた生物に見えた。
姫に撫でられようとも何一つ反応しない。
じっと目を瞑り、頑なな銅像のようだ。
「どうしたんですか、この犬」
――と、クロスが声を出した時に犬の耳がクルッと一瞬だけ動いた。目は瞑ったままだが、どうやら起きてはいるらしい。
「拾ってきちゃいました」
「また、ですか……。姫、ロードが知ったらまた怒りますよ。君は屋敷を動物園にしたいのか、とかなんとか」
「酷いなぁ、動物園だなんて。雨にうたれている動物をちょっとの間、屋敷にいさせるだけなのに。――まあ、でも。この子はもう飼うことを決めてますが」
ねえ、と頭から胴体にかけて姫は犬の体を撫でた。
犬の耳がまた一瞬だけ動く。うっすらと半目になったようだが、また見る頃には黒い瞼が閉じている。


