「姫、危ないっ」
彼女の体をそれから遠ざけようとする。
姫の近く、木の幹で死角にいて最初は気づかなかったものがそこにいた。
真っ黒の犬。
小型犬などそれぐらいなら許せるが、その犬は大きな犬だった。
一般に言う大型犬サイズ。ドーベルマンの種類なのか、細いしまりある胴体に、顔すらもシャープな形をしていた。
軍用犬にも見えるそんな種類の犬。人を襲うイメージも湧いてくる犬なんだが。
「大丈夫ですよ、“彼”は」
そう言って、彼女はまたもとの定位置に戻った。
また危ないと言いたくなるが、姫が大丈夫だというようにその犬は眠っていた。
いや、寝ているかどうかは定かじゃないが、前足であぐらをかいてそこに顎を置いて目をつむっている。体を丸めて、尻尾までも丸めるうつ伏せの姿勢。


