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姫がいるだけで、何でもない場所が聖域に見える。
庭、何もない、黄緑の絨毯(草)が生える野原。屋敷の南側には一本の木があった。
森から木々から離れて一人ぼっちの木。
大きくも小さくも、太くも細くもない、普通の取り立て見栄えもしない木。さわさわと葉が揺れると、木の下の影も揺れる。
姫は、その光と影が混ざった木の幹で寝ていた。
背中を木に預けて、すやすやと。白いワンピースに赤い髪。いつもの姫。いつものように綺麗でまぶしかった。
そっと近づく。
外で寝たら風邪引きますよ、と言うつもりだった。
見れば、彼女の真横には本があった。薄い冊子の本。珍しい、いつも分厚い本ばかり読んでいるのにと彼の目線は本に移った。


