「楽しく、ねぇ……」
伏し目で紅茶が注がれたカップを見て、姫は取っ手に指を通した。
「そうだ。楽しめ、笑え、笑い転げろ。余興というのは見るものを楽しませてこそ意味があり、楽しまなければ見る意味もない。
これは物語にも言えるぞ。序盤から終結までの間、見るもの全てに楽しみを与える。
擬音で言えば、ワクワク、ドキドキ、ハラハラかのぅ。余はそれを知っているからこそ、こうして誰もが喜べる脚本と物語世界を作り上げ――」
喋るラグナロクが黙る。口を閉じたわけじゃなく、『げ』の形で止まったまま。
――魔女の顔に、紅茶をぶちまけた姫を見ていた。
空になったカップの中身がこちらを向いている。あまりにも唐突、あまりにも予想外、開いたままの口が塞がらないとはこのことで。


