「クロスの唇は柔らかかった」
「っっ、俺は何もしていません!」
赤面するクロスを見て、姫は微笑みながら。
「やはり私は、『この雰囲気』が大好きです」
クロスのウサ耳を撫でた。
いいこいいこ、というよりは、ごめんなさいと言いたげな優しい触れ。
先ほど乱暴に扱ったのが嘘のように――いや、あれがあったから優しくしているのか。
一通り撫でられた後、姫は先に進む。すぐにクロスも後追うわけだが。
曲がり角を曲がった時――彼女の歩みが唐突に止まる。
追いついたクロスとて止まる。
「うわ……」
止まるなりの一声。
目に映る建物に、クロスは言葉をつまらせた。


