「姫……」
ここでクロスは、何故彼女がこんなにも怒っているのかを理解した。
姫に引っ張られた耳がジンジンするが、もしもあのまま剣を横に振ればどうなったことか。
彼女は、それで怒っているのだろう。命令をきかなかったに関してじゃなく、“自分を傷つける男”に対して。
『愚かにも大切にしてくれてる人の前で、己を傷つけようとした』
国本の言葉を思い出す。ついクロスは、地に横たわる剣を見て、自分のしたことを思い返す。
「言いましたよね、あなたは。アダムと戦う時、『私を悲しませることはしない』と。自分は無傷で姫を悲しませないということと私は受け取っています。
ならば、あなたは私がどれだけ大切に思っているのか自覚しているのですよね。それとも、自覚が足りないのでしょうか。
すんなりと、私の目の前で、自分自身を殺そうとするなんて。よりにもよって、私の前、で……」


