* * *
「こんにちは」
敵意ない、柔らかく、透明な声で彼女は挨拶をした。
作業をしていた男の手が止まり、挨拶してきた彼女を目にとめた。
「こんにちは」
爽やかな青年だった。姫が受けた印象がそれ。
屈託ない笑みを浮かべ――相手と同じ表情をすれば、相手は落ち着くという心理が人間にあるらしいが、彼の笑みは姫とまったく同じ笑顔だった。
春風のよう。挨拶された声色も春の陽気らしく温かいもの。――故に。
「……」
微かに彼女は気味悪がった。普通の人間ならば、この彼の笑顔一つで無防備になってしまうが、彼女の性格上――いや、生きてきた経験上、“自分と似すぎた者”はあまり信用してはならない。
中にはもちろん、本当に優しい人もいるが。初対面の人相手にここまでの笑顔を見せるとは、詐欺師めいた笑みにも見える。


