“好きやで”



そんな言葉、お前には通じんかったんや。

そんな安っぽい言葉でゆらぐような女やなかった。

やから俺は本気になったんや。


俺は砂原真(さはらまこと)。

高校を卒業して大学生になった。

なんとなく興味のある経済学を勉強しとる。


俺は昔から人見知りはせぇへん方で、
男女問わず友達は多かった。

やからあの時お前にも声をかけたんや。


「どないしたん?」


スクランブル交差点のど真ん中で、立ち止まって空を見上げとった。

早くせんと信号変わってまうし、

俺はお前に声をかけたんや。


お前はゆっくりと俺を見た。

その瞬間、
俺の中に何か分からん衝撃が走った。

お前は赤めの茶色で肩ぐらいの長さの髪、
童顔の顔にナチュラルなメイクをしとった。


「早よ渡らな危ないで?」

「…あんた関西人?」

「そうやけど…てか早よう!」


俺はお前の腕をひっぱってスクランブル交差点を一気に渡った。

お前は俺にひっぱられるがままについてきた。

渡りきると俺はお前の方を向いた。


「あんなとこで何しとったん?」

「………」


お前は答えようとせんかった。


「答えたくないんやったらええけど…
名前なんて言うん?」

「…北原茜」

「茜やな。俺は砂原真」

「どうでもいいけどさ、早く手離してよ」


茜は俺を見上げて睨んどった。

その目には寂しさが含まれとる気がした。

俺は茜が気になってたまらんかった。