「今日は、みんなが巣立っていく日ですね。」



居住まいを正して話し出した先生に、茶々が入れられる。



「おい、そんなお決まりの挨拶いらねーって。
さっさと会場入ろうぜ。」


「そーそー。
むず痒くって聞いてらんね。」



そう叫ぶ声が、どこか湿っていた。



わかるな、気持ち。



そうやって冷やかすあんた達が実は先生より卒業を惜しんでる。



不良ぶって悪さばかりして先生を困らせたあいつも、今日は初めて制服をちゃんと着てる。



第一ボタンまで閉めてるあいつも、いつもは学ランのボタン全開だったのに。



きっと、私達が思っていた以上に、卒業というイベントは、寂しい。



みんな感傷的な気分だろう。



…私だって、例外じゃなく。



心がからっぽだった。



みんなと別れるのか。



そう思うと、不安で悲しくて。



にわかには信じられない。



この中には、卒業を喜ぶ人もいるんだろうけど、圧倒的にしんみりとしている。



村井。



あんたは、今、どんな気持ちで私の前に座ってる?



ねぇ、寂しい?



それとも、少し嬉しい?



清々する?



ねぇ、本当に泣くの?