うるさい。
何回、心の中で唱えたか。
「なぁ。」
「何よ。」
とうとう根負けして、私は顔を上げた。
「怒ってんの?」
「うん。」
即頷いたのに怯み、村井は声のトーンを下げた。
「何で。」
「言い過ぎ。
友莉、保健室に行っちゃったじゃん。」
あたしは誰も座っていない隣の席を差した。
さすがにあれはキツい。
鼻をへし折られたんだから。
しかも、“悠士くん”に。
ライバルである私の前で。
友莉は気になる男子と仲良く話している女子はライバル視する。
きっと私も例外ではない。
まあ、それを村井に言ってもわからないだろうから言わないでおく。
「でも、自信過剰だったから諫めただけじゃん。」
「それが友莉にはキツいの。
自分が一番じゃないと気に入らない女王様なんだから。」
一拍置いて、村井は遠慮がちに口を開いた。
「お前の方が酷くない?」
「本人の前ではないじゃん。
これ、事実だし。
言われても仕方ないくらいのこと私にしてきてくれたのは友莉だし。」
「お前、何されたんだよ…。」
呆れたように息を吐き、「いや、言わなくていいから」と慌てたように付け足した。
大丈夫、言わない。
っていうか、言えない。
言葉では表現し切れない、女の世界だ。
そういう分野では純粋そうな村井にはちょっとキツいものがある。
私は苦笑して消しゴムを掴んだ。
「そういや、あいつと宮崎って同じ小学校だったんだよな?」
「……まぁね。」
なんであんたはそこに持っていくかな。
そこが私と友莉の泥沼なのに。


