春夜姫


 眩しいものを見るように、夏空は春夜を見つめました。
「あなたは何と強い人だ。それも、優しさに裏付けられた強さだ」
 春夜は少しぼうっとなりながら、微笑みました。
「強いと言われたのは初めてです。この魔法で夏空様とクロを守ることができることを信じるしかありません」

 湯を沸かしてお茶を入れ、炒った穀物と干した肉を、二人と一匹で分けて食べました。厚い布を纏って、横になりました。夜空には、暗い木々に縁取られ、冬の星座が煌々としてありました。結界の中は、火の熱がこもっており、凍える寒さではありません。それでも魔の森の端で夜を越す心細さがありました。
「クロ、こっちへ来てほしい」
 魔法陣の端で丸くなっていたクロを夏空は呼びます。
「一緒にいた方が温かい」
 実は、クロは仲の良い二人に遠慮していたのですが、夏空に優しく声を掛けられ、春夜に微笑みながら手招きされれば、行かない訳にはいきません。二人の間に座り、体を曲げました。ちょうど二人の体が触れて、クロは、なるほど温かいものだと思いました。しんしんと夜が更けていきます。

 こうしてお二人とクロは、魔の森の東側を、息を潜めながら南へ向かっていきました。