カリカリ、と先輩が去った後の保健室には私がペンを走らせる音だけが響く。

1年5組11番、曽我美月、っと。

言われた箇所を記入し終え顔をあげると、不躾にこちらを見ている先生と目があった。


「書き終えました、けど…。」
「あー、ご苦労さん。」


ぴらり、と私の手元から用紙が消える。
ふわり、と視界に先生の髪が揺れた。
目の前で見るとやっぱり。
浮かんだ言葉の続きは、自然と口から漏れていた。


「太陽みたいですね。」
「は?何が。」
「あ。…いや、その髪。幼稚園児が書く太陽みたいな色だなぁ、と。」


告げた私の顔をまじまじと見て、一瞬呆けた表情になった先生は次の瞬間盛大に吹き出した。
まて、私はそんな笑われることを言ったか?


「はーっはは!お前、すげぇ、ゲージュツ的センスだな、おい!」
「な、馬鹿にしてますよね!?」
「ちげぇよ、褒めてんだ。」


せっかく記入した紙を握りしめて体を折って笑う先生。
指で目元を拭うと、ずいと私に指を向けた。
散々笑われた後ということもあり、無償に腹が立つ。


「ちょ、人に指向けないでくださいよ!」
「さすが、宮城が連れてきた女だな。」


無視か!
というか。無視はともかく、勘違いは解こうと慌てて首を横にふる。


「や、連れてきたも何も、私初対面で、」
「だとしても、だ。」


先生は意味ありげに不適に笑うと、くしゃくしゃになった紙を開いた。


「曽我美月!…初対面で俺の頭の色をゲージュツ的に表したセンスを見込んで言おう。」


ニッと笑い、口を開く先生。
しかし、続く言葉を告げたのは先生の声ではなかった。


「"来年度の特別保健委員にお前を任命する"、だろ。」