花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 始業の時間が近づき、登校中の生徒達の話し声がちらほらと千歳のプレハブにも聞こえてくる頃。
「お待たせしましたー」
 ほのぼのとした声と共にドアが開く音がして、間もなく引き戸が開き小梅が姿を見せた。
「おっはよーさーん。何々? 千早っち女の子だったんだって~?」
 お呼びじゃない声も一緒だ。よりによってこんな状況で一番会いたくない人物も、もれなくついてきていた。
「いいもん持ってきたぜ~」
 小梅の後ろからニヤニヤと、相当上機嫌な様子で部屋に入ってきた綾人が、腕に抱えていた大き目の紙袋を床に置く。
「……いいもの?」
 怪訝な顔で、先ほどから床に座り込んだまま微動だに動いていない千歳が見上げると、小梅は楽しげに頷いてみせた。
「はい。お手伝いのマキさんからお洋服借りてきました~。小梅のじゃ千早さんには小さいでしょうから」
 どうやら女の子らしくしましょう、という言葉どおりに千早に女物の服を用意してきたらしい。綾人が床に置いた紙袋を満足げに見やると、小梅は軽く手をぱんぱんとはたいて、
「ではでは、男子の皆様はちょっと外に出ていてくださいね~」
 有無を言わせぬ笑顔で千歳と綾人にそう言った。どうやら早速着替えさせるらしい。
 仕方なくゆっくり立ち上がりドアの方へと移動した千歳と、追い出されるのに未練があるのかちょっと不満げな綾人をドアの外に追い出すと、ご丁寧に鍵までかけて二人を締め出した。
 そしてつかつかと千早に近寄るとにっこりと微笑む。
「では、始めましょうか」
「……僕は、別に……このままでいいけど……」
「駄目です。それに、女の子なんだから僕じゃなくてわたしですよ」
「わた……し……」