花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 座ったままの千歳に目線を合わせようと小梅が目の前に屈むと、急に千歳は両手で小梅の肩をがっしと掴み、
「何も無いからな」
 意味のわからない一言を呟いた。
「え……?」
 何故か顔が薄く紅潮しているし、目が据わっている。様子のおかしな千歳に戸惑い小梅が首を傾げていると・・…肩に乗せた手を離し、今度は小梅の片手をとりすっくと立ち上がる。千歳につられるように立ち上がった小梅の手をひき、千歳は小梅をドアの方へと促しながら言った。
「とにかく来て」
 ドアを開け、短い廊下を進み引き戸を開ける。
「あ……」
 部屋に入ってきた千歳と小梅に気付き、ベッドに腰掛けていた千早が小さく声をあげ、二人の方へと顔を向けた。
「千歳……あの……」
 そして、おずおずと何かを言いかけたのだが――
「こいつ、ここに置いとけない」
 千歳はそれをそんな言葉で遮って、千早を指差し小梅に振り返った。
「え?」
「……こいつ…………女だ」
「ええ!?」
 言いにくそうに眉根を寄せて搾り出した千歳の台詞に、小梅は目を見開き千早と千歳を交互に見ながら、驚声をあげた。
 千早も少々困ったような顔をしているが、千歳の比ではない。千歳のほうは困り顔を通り越して苦悩の域にも達しそうな勢いで顔を強張らせている。