花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 見送る龍馬の言葉に頷き、
「はい。パパも気をつけて」
 そう言って微笑むと、急いでリビングを後にする。調理場に寄って、あきらかに小柄な女の子一人で食べるには不似合いな大きな弁当包みを取って玄関に向かう。今朝も早くから準備万端。しかも今日はいつもの人数分に加えて一人分増量してある。今日の昼は千早も誘うつもりだったから。
 普段より少し重めの重箱を手に、急ぎ足で学校へ向かう。
 小梅の家は学校まで徒歩で十分ほどと、学校から至極近い。大抵は通りすがりに綾人が立ち寄って一緒に行ったりするのだが、綾人が朝練だったりして時間がずれることも多いから一人で行くことも多い。
 慣れた足取りで校門をくぐり、いつもなら真っ直ぐ目指す校舎ではなく、校舎の裏手へと方向を変える。
 夏らしい見事な晴天に映える濃い緑が密集するその場所に足を踏み入れ、ほんの少し進めば、千歳の住まうプレハブ小屋の屋根が見える。木々の間細く伸びた小道を真っ直ぐ進み小屋の入り口が見えたところで、ドアの前に座り込む人影に気が付いた。
「ちーちゃん?」
「……小梅!」
 小梅が声を掛けると、抱えた膝にうずまっていた頭がぱっと弾かれたようにあがった。
「もう来てくれたんだ……ごめん……ありがと。助かっ……たあ」
 力ない声でそう言って、心底ほっとしたような表情を浮かべた千歳の顔。その顔色は酷く青ざめて、目の下がやけに黒ずんでいる。寝不足なのが一目でわかる酷く疲れた顔に、小梅は驚いて千歳に駆け寄った。
「どうしたの? ちーちゃん」