花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 やけに鮮烈な。けれど夢の中で感じたのと全く同じ感触を手の平に受けた千歳は、瞬間、激しく後ろに飛びのいた。
 ガン。
 狭いベッドの上で勢い良く千早から遠ざかろうとしたために強かに頭を壁にぶつける……が、その痛みすらどうでもいいほどのショックに千歳は襲われていた。
『な……ななななななな』
 声にならずに口だけを喘ぐように開閉させながら、千歳は千早を凝視して壁際で硬直する。自分の胸にあんな柔らかなものなどありはしない。それが、何故千早にはあるのだ。
 触れた場所が返した感触が、とんでもない事実となって千歳につきつけられた。
 こみ上げてくる声を押し込めようと慌てて両手で口を塞ぐ。大声を出して千早が目を覚ますのは避けたい。漏れ出ようとする言葉を必死に飲み込み、千歳は胸のうちだけで叫ぶ。

『嘘だ嘘だ嘘だ。嘘だーーーーーー!!』

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 生ハムの乗ったグリーンサラダ、チーズオムレツ。そして焼きたての香ばしい匂いが食欲をそそる手製の丸いパンは天然酵母使用。マキが用意してくれた今朝の朝食は二人分。  
 母親は先週末から一週間の出張中。よってこれは小梅と龍馬の分だ。龍馬の姿はまだないが、いつも小梅より少し遅めの起床だったりする。
「小梅ちゃん、早く食べなよ。理事長どうせまた遅いんだから」