その姿に自然と頬が緩むのがわかる。同時に舞っているのがなんの花びらなのかも思い出す。桜よりも色鮮やかで、桜の気品よりも素朴さが可愛らしい……千歳が想う少女と同じ名前の花。そこで今踊る少女と同じ名前の花。
「小梅」
自然、口にした名前に、踊っていた少女が動きを止めて振り返る。
花びらによく似た小さな可愛らしい唇が、ふわりと柔らかなカーヴを描く。
「小梅……」
それに惹かれるように無意識に手を伸ばしていた。
あと少し。
あと少しで手が届く。
そのか細い肩に手が触れた。同時に手の平に伝わる温度と柔らかな感触。少女のイメージそのもののふわりとした、でも……やけに……生々しい弾力をともなった――
「……え?」
そこにいるはずがない。夢だとちゃんとわかっているつもりでいたのに伝わってきた確かな手応えに千歳は思わず瞼を瞬かせた。途端に、花散る景色は消えうせ、かわりに遥かに現実的な夜の闇と摩り替わる。
けれど。手の平の感触はまだ残ったまま。
いや、残るどころか……今、この時も、未だ手の平の中に在る。温度を持った柔らかで弾力のある、何か――
同時に、何かが鼻先をかすめた。
覚えのある香り。千歳が毎日使っているシャンプーの香り。それがやけに近くから……千歳のすぐ鼻先から匂ってくる。そして、耳を澄ませば微かに寝息らしきものも聞こえる。
「……っ」

