廊下のほうから水が流れる音が聞こえてきた。部屋とそう距離がないからシャワーの音は筒抜けだ。普段は自分以外いないから気にしたこともなかったが、結構水音って響くものだなと思いながら瞼を閉じて耳を澄ませる。説明せずとも、千早はシャワーの使い方もちゃんと知っているようだ。
「ふあ……」
後から制服を返しに行かなくてはいけない。こみ上げてくる欠伸を噛み殺しながらそう思い、襲ってくる眠気に懸命に耐える。
けれど、やっぱり千早は妙なところまで千歳に似ているらしい。
いつまでも止まない水音。
自分と同じく、千早は長風呂のようだ。
「勘弁してくれよ」
だんだんと持ち上がらなくなってきた瞼に、制服を返すのは今晩は無理だとあきらめる。
あきらめてしまえば、抵抗する力はみるみるうちに失われていく。体がスプリングに沈んでいくかのような感覚の中、千歳の意識は鳴り続ける水音に溶け込んでいった。
そして水音も少しづつ遠ざかり、やがて無音の世界が訪れる。
どこまでも静寂に満ちた穏やかな闇。
ふと、ひらりと何かが舞った気がして、まどろんでいた意識をそこに集める。
ひらり。ひらり。くるり。
薄紅に色づいた小さな花弁が踊るようにその身をくねらせ、一枚、また一枚と数を増やしていく。
小さくとも光沢を纏った花弁が舞い落ちる数を増やせば、その微かな光源も周囲をほのかに照らしていく。
集まるように一箇所にかたまり舞う花弁が照らす空間に人影が浮かぶ。小さなその人影が花びらの動きに合わせるように、くるりくるりと楽しげに回っている。
良く知る姿。

