花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 ぺろりとお重を平らげ、お茶をすする千歳を見て小梅が言った。
「うん。だからたいしたことないって……昨日くらいからちょっと風邪気味なだけで、すぐに治るよ。俺、丈夫だから」
「うん……あ、でも今日はバイトはお休みしましょう。パパには小梅から言っとくから平気。もちろん有給休暇にしてもらうのです」
「え……でも……」
「駄目。お休み」
 やんわりとした笑顔で、けれどぴしゃりと却下される。
 小梅がこう言う時は何を言っても聞かない。
「……わかった。でも、授業はちゃんと受けて帰る」
「うん。じゃあ、今日は帰りちーちゃん迎えに来るね? 綾人さん、小梅が来るまで見張っててくださいね」
「はーい。了解」
 小梅の申し出に綾人はビシッと敬礼の形で額に手を当ててそれを了承する。
「……って? ええ? 俺逃げないし」
「いえ。ちーちゃんは時々頑固で頑張りすぎたりしますから油断できないです。ちゃんとお部屋に送って寝るのを確認しなくちゃ安心出来ないもの」
 真剣な顔で言う小梅に千歳は苦笑する。確かに、違うとは言い切れない。
 さすがに長い付き合いだけにしっかり見抜かれている。