花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 千歳の額から手を下ろした小梅が至近距離で顔を覗き込むので、更に千歳の顔が赤くなった。
 これはやばい。体が弱っているせいか、小梅に対しての免疫力も落ちてしまっている……普段だったら平静を装えるのに、今は胸の動悸を治めるのが難しい。
 これでは余計熱が上がってしまいそうだと、
「大丈夫。ただの風邪だからたいしたことないって」
 小梅の視線から逃れるように、広げられた弁当の方へと視線を移す。
「うわ、すっげ豪華だな。今日は鰻重か?」
「あ……そうです。今日は鰻にしたんです。最近ちーちゃん疲れてそうだったから」
 千歳の声に思い出したのか、小梅は弁当を振り返った。
 紫色の風呂敷の上には三段重ねのお重。一人一段ずつと用意した重箱では適度な焦げ目と艶々とした照りが美味しそうな鰻が適度な大きさに切られ、下にあるご飯が見えないほどに隙間なく綺麗に並べられている。彩りに添えられた山椒の緑がまた食欲をそそる。
「食べていい?」
「あ、うん」